『世界は幻なんかじゃない』 単行本

1976年9月6日、函館。
その日、ぼんやりと教室の窓から希望もなく青空を見上げていた俺の視線の先を、不意に機影が焦がしていった。
その一点はどんどん膨れ上がって、最後には巨大な鷲となり、俺の目の前を通過していった。
ビクトル・イワノビッチ・ベレンコ。
当時の最新鋭戦闘機ミグ25を操縦したソ連空軍中尉の亡命だった。
ベレンコこそ俺の人生をずっと揺るがし続けた男だった。
俺はその日から今日まで、人間が希求してやまないこの自由という怪物について考え続けることになる。
フランスで生まれアメリカで育てられた自由という言葉。
世界はその言葉の魔力だけを信じてここまで盲目的に膨張してしまった。
俺はアメリカにやってきた。
自由という概念を世界中にばらまいた張本人を確認するために。
ベレンコに会って、自由というこの幻想の霧を晴らすために。
N.Y.、オークランド、ニューオーリンズ、ヒューストン、エルパソ、そしてL.Aへ。
大陸横断鉄道の車窓から見た、アメリカの光と影。駆け抜けるような筆致で描く、ハードフォトエッセイ。

初出誌:書き下ろし

角川書店:1998年2月 フォトエッセイ(写真:辻仁成)

価格:¥1.400(税別)
ISBN:4-04-883521-1
形態:199ページ